ゆきの子供達 第二十三章 若殿の出陣
間もなくして戦の準備が整いました。殿様と若殿は兵と一緒に出かけるところでした。「ゆき、行ってくる。私が留守の間、家老から国の治め方を学びなさい」と若殿は言いました。
「お気をつけて、どうぞご無事で」とゆきは心配そうに答えました。若殿は笑顔で「うむ」と答え、颯爽と馬に乗り、戦場へ向かっていきました。ゆきはその出陣を見えなくなるまでじっと見送りました。
若殿が帰ってくるのを待つ間、ゆきは毎日、朝から晩まで一生懸命国の治め方を勉強しました。時々殿様や若殿からの手紙を受け取ることもありました。殿様の手紙の内容はほとんどは、戦の報告や家老への命令でしたが、若殿からの手紙の内容の大半は、ゆきへの想いを綴ったもので、それはまるで恋文のようでした。ゆきはその手紙を、自分の宝物を入れている化粧箱の中に保管し、寝る前に必ずそれを読み返しながら、若殿の無事を祈っていました。そんな行為が日課になりつつあった、ある日のことです。
その日の指導が終わった時、自分の部屋でお点前を練習しに戻ろうとするゆきに、家老が「ゆき様には、国を治める資質がおありです。読み書きは、お祖母様から学ばれたのでしょうか」と尋ねました。
ゆきは手を止め、「そうです。書物を読むのが大好きです。でも、私の村には読み物があまりなかったので、おばあさまの『源氏物語』以外、あまり読んだことがありません」と答えました。
すると、家老は、「さようでございますか。では源氏物語は、全てお読みになりましたか」と家老は聞くと、ゆきは少し残念そうに「おばあさまの本は数章が抜けておりましたので、全てを読んではおりません」と答えました。
「さようでございますか。ここには『源氏物語』の全巻と、他にもいろいろな本がございます。もしお暇があれば、どうぞお読みください」と家老は優しく言いました。