ゆきの子供達 第二十八章 家老の再取立て

その後、ゆきは城に着き、若殿との再会を喜びました。

次の朝、若殿はゆきの従者と話した後、少し渋い顔をしながら、ゆきにこう言いました。「なぜ百姓らに演説したのだ。そういうことを姫がするのは、いかがなものかな…?」

ゆきは、「大名の娘ではありますが、姫として育ったわけではありません。百姓たちの中で育ったので、彼らの気持ちがよく分かります。百姓は自分達の生活が変わってしまうのを恐れているので、変革など好みません。だから、昔の生活に戻るということを話したのです」と、反論しました。

若殿は、「私は怒っているのではない…ただ、私の妻であるという立場を弁えて、そういうことはしないでほしいのだ」と、少し興奮気味のゆきを、なだめるように言ったのですが、ゆきにはその言葉が逆に白々しく聞こえました。

ゆきは「それはどういう意味でしょうか?私がこの国を治めるようにと父上さまがおっしゃったことや、あなたに私を補助してくれるようにとおっしゃってくださったことをお忘れなのですか?それとも、私はあなたの妻として黙って奥に控えていれば良いだけの人間だということでしょうか!?」そういい終えると、くるりと後ろを振り向き、自分の部屋に向かい駆け出しました。走りながら、溢れてくる涙が止まりませんでした。しかし、そんなことに構う余裕もありませんでした。自分の部屋の襖をぴしゃりと閉め、そのまま泣き伏しました。

少しして、部屋の外から「ゆきさま、見知らぬ男の方が、ゆき様にお会いしたいと申しております。亡き殿にお仕えしていたと本人は言っていますが…」という小姓の声が聞こえてきました。

ゆきは涙を拭き、「その方を謁見の間にお通ししてください」と言いました。

小姓が去った後、ゆきは心を落ち着けてから、謁見の間へ向かいました。そこには、小姓と男がいました。

ゆきは、「外で待っていてください」と小姓に言いました。小姓が去ってから、「父上に仕えていたとのことですが、何か証になるようなものはありますか」と男に尋ねました。

男は、「ここに私の印鑑がございます。お父上の時代、この印鑑で多数の公文書に押印してきました。その当時の城は焼け落ちてしまいましたが、もしかしたら焼け残った公文書もあるかもしれません。印影に見覚えはございませんか?」と答えました。

「このような印章はたしかに見覚えがあります」とゆきは言いました。入り口に向かって、「入ってください」と小姓を呼びました。

小姓は中に入り、「はい」と言いました。

ゆきは、「私の部屋から、家系図の本をここに持ってきてください」と命じました。

小姓が小走りに出て行ってから、ゆきは、「父上の治世が終わった後、どこで、何をしていたのですか」と聞きました。

男は、「あの後、逃げ延びた先で、その土地の殿にお仕えしておりました。こちらをどうかお読みください」と、手紙をゆきに渡しました。

ゆきはその手紙を読んでから、「あの殿は結婚式においででしたね。しかし、あなたはお見かけしませんでしたが、どうしてでしょうか」と尋ねました。

「あの時、私は殿の代理として城に残っていたのでございます。しかし、この国を元主君の娘御さまがお治めになるということを聞き、懐かしさのあまり居ても立ってもいられなくなり、殿にお願いしてお暇をいただき、こちらに急いで駆けつけた次第でございます」と男は答えました。

ちょうどその時、小姓が戻ってきて、家系図の本をゆきに渡しました。ゆきは本を開き、そこに押されている印を男の印鑑と見比べました。そしてすぐに、「やっぱり!確かにこれは同じ印です」と興奮して声を出しました。指で示している印影のちょうど側にはゆきの名前や誕生日が書いてありました。

「左様でございます。私は、あの日をよく覚えております。ゆきさまの生まれた日で私がそれを書いて印を押しました」と男は答えました。

「それでは、私の後についてきてください」とゆきは言い、若殿のところに向かいました。「旦那さま、この者は私の父上に仕えていたと申しております。もし本当に信頼のおける人物であるなら、重臣として迎え入れたいのですが」と言って、手紙を若殿に渡しました。

若殿は手紙を読んで、「よく分かった。かの国の舵を取っていたのは彼であったのか」と答え、その男を家老に取り立てました。

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