ゆきの子供達 第五十章 家来の妻
夜になり、その家来の妻がゆきの部屋に入ってきました。彼女はそわそわしていました。「ゆき様、私について何をお聞きであっても、それは出鱈目なことでございます。信じないでください」と言いました。
ゆきは、「ちょうど今お湯が沸きました。お茶を飲んだ後でゆっくり話しましょう」と、お茶を点て始めました。
お茶を飲んだ後で、ゆきは、「あの村はあなたの故郷なのに、戻りたくないそうですね。どうしてなの?」と聞きました。
家来の妻は、「あの村で鬼の襲撃に怯えながら暮らしていました。それは、私にはとても辛いことでした。結婚した後は村に絶対戻るまいと心に決めたのです。私がそう思っていることはこの城の人達は皆知っていることでございますので、ゆき様も当然ご存知かと思っておりましたが…。今回私どもを村に戻すというのは、私がゆき様の悪い噂を流したという話をお聞きなっての処罰でございますか」と聞きました。
ゆきは、「あなたがそのように決心していたとは知りませんでした。私はただあなたのお兄さんの子供達のことだけを考えていました。あの子達しかおじいさんの田畑を相続する者がいないのです。でも、あの子達はまだ幼すぎるから、十分に成長するまで、誰かが面倒を見てやらねばなりません。他に、世話をしてくれる身寄りがありますか」と尋ねました。
家来の妻ははっと息をのみました。「兄の子供達が孤児になっていたのですか。知りませんでした。彼らをここに呼び寄せてもよろしいでしょうか。ここでなら、私が育てることができます」
ゆきは首を振りました。「ここだと、田畑のことを全く知らずに育つでしょうね。皆が城で暮らしたら、いったい誰がおじいさんから受け継いだ田畑を耕すのですか」
家来の妻は震えました。「でも、鬼が怖いのです。また鬼が襲って来たら、どうしたらいいのでしょうか」
ゆきは、「殿は、すでに二匹の鬼の首を切り落としています。また鬼が来ても、殿はすぐに兵を率いて駆けつけ、前のように首を切り落として下さるに違いありません。今回の旅の間に、それぞれの村に早く行き来できるように、殿は道を修繕する手筈を整えました。心配しないでください」と、もう一度お茶を点てました。そうして、ようやく家来の妻は夫と一緒にその村に住むことにしぶしぶ同意しました。