ゆきの子供達 第五十六章 寂しげな二人

次の日、狐子が家老に会おうとすると、彼は「いろいろと思案しなければならないことがございますゆえ、今は手が離せないのです」としか答えずに、狐子に背を向けてしまいました。

狐子はゆきのところに行きました。「家老さんが私に会いたがらないの。どうしよう?」と訊きました。

ゆきは「分からないわ。どうしたらいいのかしら」と言うと、女将はそれとなく、「あのお方、どうして狐子様のことが好きになったのでしょうねえ」と一言、口を出しました。

「あ!分かった」と狐子は言って、急いで部屋を出て行きました。

それから狐子は城のあちこちに行って、困っている者がいれば、誰にでも親切にしました。特に、泣いている子供がいると、すぐに狐子はその子に駆け寄りました。その泣き顔は見る見るうちに笑顔になりました。

しばらくすると城の中で狐子の話がよく囁かれるようになりました。

「狐子という人を知ってる?」

「赤毛の子?うん。昨日、うちの子が転んで、膝を擦り剥いちゃったら、あの娘がさっと飛んできて立ち上がらせたの。私が息子の側に駆け寄った時には、もうニコニコ笑ってたわ。膝の血を拭い取ると、もう傷は跡形もなかったのよ」

「うちの亭主は殿様と一緒に旅をしていたんだけれど、その途中、あの子が妖怪に化けて、鬼と戦ったと言っていたわ。そんな怪しい者を子供に近づけるのはいかがなものかしら?」

「へえ?私は妖怪ではなくて、狐に化けたと聞いたわ。狐は妖怪じゃなくて、神様の使者よね」

「ねえ、あの赤毛の子の話をしてるの?私も見たわよ。この頃、あの娘は庭にぽつんと座って、お城の方を見ては溜息をついたりしていたのよ」

「そう!そう言えば、私も息子を連れて一緒に帰る途中で、あの娘の溜息を聞いたことがあるわ」

狐子と家老が再会して数週間の後、若殿はゆきと話しました。「どうやら、最近、家老は政務に集中できなくなっているらしい」

ゆきは頷きました。「そのようでございますね。評定の最中も溜息をついたりぼんやりと壁を眺めたりして心ここにあらずという感じがいたします。これまでは、同じ質問を度々繰り返す必要などございませんでしたのに、近頃は、三度尋ねても返答がない場合も珍しくなくなってまいりました」

「どうやら、狐子と会いたくないようでいて、実は会いたいらしいのだ。二人をなんとかもう一度会わせてみるのが良いのではなかろうか」と若殿はゆきの顔を見つめて言いました。

「かしこまりました。今宵のお茶席には狐子ちゃんと家老を招きましょう」と言うと、ゆきは女将にその旨を伝えました。

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