ゆきの子供達 第九十章 狐一と親衛長

一方、狐一は道場に着きました。そこでは親衛長が棒や木剣で修行している男達を見守っていました。狐一が家老からの手紙を渡すと、親衛長は「ちょっと待て」と言い、手紙を読みました。

そして、「侍と喧嘩したいらしいな」と言い、狐一の大きさを目で計ってから、棚から男達が着ていると同じような綿入れの服を出しました。「これを着なさい」と、狐一に服を与え、練習用の武器が並んでいる棚から一本の棒を手に取りました。それを着替えた狐一に渡し、棒を使っている男の一人を呼びました。「この小姓は武士と戦いたいらしい。実力を見てみたい」と言うと、狐一の方へ向かいました。「打たれないでそいつを打ってみろ」

この棒をどう使えばいいのか分からないまま、狐一が呆然と棒を見つめている間に、男の棒は宙を切り、狐一の持っていた棒をはね飛ばし、狐一の胸を目掛けて飛んできました。しかし、その時には、狐一はもうそこにいませんでした。

その攻撃の上から反応が遅すぎる男に向かって飛んでくる狐一は、相手を肩に蹴り、後ろへよろけさせました。男が倒れるのと同時に、狐一は元の場所に軽く着地し、親衛長の「やめろ!」という叫びが聞こえました。

親衛長は狐一が落とした棒を取り上げ、「武器を放すな!これで相手を叩けと言ったろう」と怒鳴りつけました。

「こんなのの使い方が分かりません」と狐一は指を伸ばしたり折ったりしながら「僕にとって、これさえあれば、武器は充分ですよ」と言いました。

「自分で戦うなら、素手で戦っても構わん。しかし、親衛隊に入ったら、隊員の一人として戦うことが必要な場合も多い。そんな時、全員がそれそぞれに必要な武器を使わなくちゃならんぞ」

「親衛隊に入ると…?なるほど」狐一の目は城に来てから、初めて輝いていました。「じゃあ、この戦い方を習って頑張ります」と言うと、改めて棒を手に取って、練習している男達の構えを真似ました。

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