ゆきの子供達 第九十二章 ゆきの陣痛
悲鳴をあげたのはゆきでした。皆はゆきの方へ振り返りました。ゆきは大きくなっているお腹に手をあてていました。 ゆきの隣に座っていた若殿は慌てて立ち上がりました。「ゆき!どうした?大丈夫か?」と混乱したように訊きました。 ゆきは、「痛い!お腹が痛いの!」と泣き声で答えました。 若殿は辺りを見回し、「どうすればいい?誰か、医者を!ゆき、しっかり!」と言いました。 花見のおやつを配っていた下女と喋っていた女将が声をかけました。「殿、恐れながら、助産婦を呼んだ方が適当でしょう。それは産痛に違いありません。ゆき様、痛みは治まりましたか?」と尋ねました。ゆきが頷くと、「お部屋にお戻り下さい。庭で産むのはお恥ずかしいことでしょう。広子、奇麗な布をゆき様の部屋に運びなさい。沸かしたお湯も必要ですね」と言うと、ゆきの腕を取って、立ち上がらせました。 下女達が準備をしに行くと、若殿達はゆき達と一緒に部屋へ向かって行きました。しかし、部屋に着いた時、若殿も入ろうとすると、女将は、「これは女のことなので、男子禁制でございます。例え殿でも入室はお断ります」と言い、襖を閉めました。 若殿は血が頭に上ったように、「あれは俺の妻で、産まれるのは俺の子ではないか!」と怒鳴り、襖を破れるところでしたが、後ろから誰かが肩に手を置きました。振り返ると、殿様でした。 「やめろ。無駄だ。お前が生まれた時、わしも今のお前と同じように母と一緒にいたかったができなかった。待つ間庭に戻り、できるだけ花見を楽しもう」と、若殿の腕を取って、庭へ連れて行こうとすると、狐が声をかけました。「失礼ですが、後でお話ししましう。誰かにこのことについて知らせに行ってきますから」と、お辞儀をしてから去りました。