ゆきの子供達 第五十二章 三本の尻尾
そのようにして数週間が過ぎました。ある秋空の日、ゆきは庭で日向ぼっこをしながら、座って本を読んでいました。ふと、誰かが落ち葉の上を歩く足音が聞こえました。辺りを見渡すと、見覚えのある赤毛の娘が見えました。
「狐子ちゃん!おかえり!」と、ゆきは重い体でゆっくりと立ち上がりました。
「ただいま!わあっ、ゆきちゃん、お腹がすっかり大きくなったわね。赤ちゃんが蹴るのがもう分かるの?」と狐子が聞くと、ゆきは「そうよ。さわってみて!」と、狐子の手を取って、自分のお腹に置きました。
「力強い蹴りね!いつ生まれるのかしら?」と狐子が尋ねると、ゆきは「春らしいの。多分、お花見のころね」と答えました。
「わあ!きっと桜のように華やかな子が産まれるわよ」と狐子が言うと、ゆきは「それはそうと狐子ちゃん、ここを離れてから、どうしてたの?心配しないでと言っていたけど、なかなか戻ってこなかったから、気になってたの。その後、変わりはないの?」と聞きました。
狐子は、「心配しないで大丈夫よ。鬼との争いのおかげで、尻尾をもう一本付けることを許してもらったの。見て!」と、狐の姿に戻り、背中の後ろに揺れる数本の尻尾を見せました。
ゆきは、「可愛い!」と、指差して数え始めました。「一、二、三…三本あるわ。ええと、前は二本だったかしら?狐子ちゃんはいつも人間の姿だったから覚えてないわ」
狐子は人間の姿に化け、「前は二本だったの。お父さんが得意気な顔をしてたわ」と笑った後、一転して憂鬱そうに溜息をつきました。「でも、もう尻尾が三本になったのだから、一族繁栄のために、すぐにでも結婚すべきだって、お父さんが言うのよ。それでひっきりなしに、つまんない男に私を紹介するの。本当にうんざりするわ。みんな人間のことなんかより私の尻尾をくんくん嗅ぐことにしか興味がないのよ」と言って、顔をしかめました。
「それは残念ね。まだお嫁に行きたくないの?」
「結婚はしたいけど、そんな男たちとはちょっとね…」
「どんな人がいいの?」
狐子は両手を胸に置いて、顔を上げ、微笑んでから、長く息をつきました。そして「家老」とだけ言いました。
「えぇ?何?どういうこと?」
「家老のような人がいいの。優しいし、頭がいいし、世の中のことをよく知っているしね」
「でも、年が違いすぎない?」
「構わないわ。昔から彼のことが好きなの。それに、狐の一生は人間のと違うのよ。私は何歳だと思う?」
「ええと。十五、六歳かしら?」
狐子は二、三歳の女の子の姿に化けました。「今、何歳ぐらいに見える?」と言ってから、次は八十代の老女の姿に化けました。「今度は?」と言って、元の姿に戻りました。「化けている姿は自分の年齢と関係ないのよ。ただ、性格と合わせた姿の方が気持ちいいから、いつも娘の格好をしているの。狐としてはまだまだ若輩者だけど、実は家老の年とあまり変わらないのよ」
ゆきは額に手を当てて考え込んでしまいました。「そうなのね。でもちょっと待って。どういうことなのかしら。混乱して、頭が痛くなってきたわ。いつから家老のことを好きだったの?どうやって知り合ったの?」
狐子は、「長い話よ。陽がもうすぐ沈むから、部屋に行きましょうよ」と、ゆきの手を取って、城の門へ向かって歩き始めました。