ゆきの子供達 第六十章 狐の到着

ある日、狐子が茶席の後で大広間を出ようとすると、彼女の前に一匹の狐がいました。狐子は一瞬呆然として狐を見つめてから、「父さん!どうしてここにいるの?」と聞きました。

「お前の決心をずっと待っていたのだ。狐子や、どの狐と結婚するのだ?」と狐が言うと、狐子は「ええと、実は…」と言いよどみました。そして、狐子の横に家老が現れました。「狐様、はじめまして。昔からお嬢様のことをお慕いしておりました。狐子様と結婚させていただければ、大変嬉しいのですが」と深く頭を下げながら言いました。

狐は首を横に傾けました。「人間なのだな?やはり、この子は、いつも人間ばかりに関心が向いている」と呟いた時、狐子の向かい側に琵琶法師が現れました。「あなた様は狐子様のお父上なのでございますか?お嬢様は本当に気立ての良い方でございますね」と深く頭を下げました。

家老は狐子の頭越しに琵琶法師を睨みつけましたが、琵琶法師は気がつかないようでした。狐子は困った顔をして左右を見ました。

「やれやれ、もう一人も人間か?いや、人間じゃないな。狐の呪いの跡を感じる」と呟いてから、三人に向かって言いました。「三人とも、人ごみから離れよう」と言って、尾を振りながら大広間に入って、三人を高座の方へ連れていきました。

大広間を出ようとしていた者たちがそれに気づき、立ち止まって呆然と狐たちを見つめました。そのうちにこのような会話が聞こえました。

「狐が!」

「妖怪が!」

「馬鹿!狐は妖怪じゃない!殿様の味方にも、妖怪に対して戦う狐がいるではないか!」

「なるほど」

ゆきと若殿はまだ高座にいました。ゆきは狐を見ると、「狐どの─いや、狐叔父上、久しぶりですね。どうしてこんな天気が悪い時に来ようと決めたのですか」と言って、お茶を点てて、狐に振舞いました。

狐はお茶を飲みながら狐子の方を見ました。「この子はあの話をしましたか?」

狐子は父親を見ました。「私はもう子供じゃないのよ!」と言ってから、顔を真っ赤にして、目を伏せました。「とにかく、伯母上が許してくれた」と呟きました。

狐は首を横に傾けました。「そうか?なるほど。おそらく姉はようやく喪が明けたのだな。姉と会った方がいいだろう」と言うと、家老の方を見ました。「あなたはこの国の家老なのですね。昔から娘のことが好きだと言っていた方ですね。狐子と出会ったきっかけをうかがってもいいですか?」と尋ねました。

「少年の頃、まだ城の廊下を歩いている時でございました。その頃、時折父上と思われる男性と一緒に城に来ている赤毛の女の子がいたことが気付きました。そのお訪ねのことですが、なぜか緩んだ床の板に私が躓いて転んでしまって時、あの赤毛の娘は立ち上がることを手伝ってくれいました。でも、籠城している時まで、赤毛の娘のお訪ねは短こうございましたし、次のお訪ねまで数ヶ月がかかりましたので、親しくなる機会はあまりございませんでした。その頃、狐子様はいつも他人を助けようとしているようでしたので、好意を持ったのでございます。落城の際、私は狐子様とは離ればなれになってしまって、ゆき様が帰ってくるまでお会いすることができませんでした」

家老がそう言った時、狐は人間の姿に化けました。そして、「その赤毛の女の子が一緒にいた男というのは、このようでしたか」と問いました。

家老は首を捻りました。「そうですね。十五年以上も前のことなので、よく覚えていませんが…多分、そうだと思います」

まだ大広間に残っていた人々は、それを見てこう囁きました。

「あれを見た?」

「見た、見た!狐が人間に化けた!」

「狐子様が狐に化けたという噂を聞いたが、この目で見るまで信じられなかったよ!」

それを聞くと、若殿は、「ここは人目が多いので、私の部屋に行きましょう」と言うと、狐たちを連れて大広間から出て行きました。

最初へ 前へ 次へ 最後へ  目次へ  ホームへ

Copyright © 2006-9, Richard VanHouten RSS Feed Valid XHTML 1.0 Strict Valid CSS!