目次もくじ

  1. 第一章だいいっしょう  ゆきの子供達こどもたち
  2. 第二章だいにしょう  れんなにをしている?
  3. 第三章だいさんしょう  狐子ここ捜索そうさく
  4. 第四章だいよんしょう  たすかった
  5. 第五章だいごしょう  たびすす
  6. 第六章だいろくしょう  殿とのとの茶席ちゃせき
  7. 第七章だいななしょう  たび準備じゅんび

第二章だいにしょう

れんなにをしている?

その夜明よあけれん窓際まどぎわ目覚めざめたとき障子越しょうじごしにあわひかりが、れんまわりにかこむようにくらかげつくり、布団ふとんだけがしろくぽっかりとがったようにえた。でも、彼女かのじょにとって、そのかげこわいものではなく、よく見慣みなれたものであった。

れん障子しょうじけてもっとひかりれると、かげ正体しょうたい隙間すきまなくべられたおもちゃのいえであることがかった。しろ山小屋やまごや屋敷やしき草屋くさや、おてらやおやしろ小間物屋こまものやいたるまで、かべおおって天井てんじょうまでかさねたたなからあふれたちいさな建物たてもの布団ふとんふちまでっていた。

いとしく部屋へや見回みまわし、いえいえあいだせま通路つうろあるきながらそれぞれの建物たてものやさしくでているれんは、「もうすこちなさい。しばらくするともっとひろいところにいつれるから。あれ?兄弟きょうだいがもう一軒いっけんしいの?うん、今日きょうはあなたの兄弟きょうだいさそうないえさがしにってくるわ」とつぶやいた。

すこちがえただけで、いえ一軒いっけんこわしてしまうほどせま通路つうろ用心深ようじんぶかすすみながら、れんはあちこちでなにかをなおすためにまった。そうしているうちに、あかるい日差ひざしが部屋へやらしはじめた。

れんは、自分じぶんつくった建物たてものなかもっとおおきなしろまえまり、ちいさなもんけ、そのおくかくしていた下女げじょふくした。ふくむねいたれんは、注意深ちゅういぶかくまたせま通路つうろある布団ふとんもどると、素早すばや着替きがえ、黄土こうど木炭もくたん欠片かけらたもとにしまい、紙束かみたばってふすまけた。廊下ろうか両側りょうがわ見渡みわただれもいないことを確認かくにんし、ふすまめて台所だいどころかってあるはじめた。

残念ざんねんなことに、廊下ろうかかどがったところで、こうからさくらくわしてしまった。無論むろん、その距離きょりでは長女ちょうじょ次女じじょ見逸みそれるわけがなかった。

れん!どうしてそんなみょう格好かっこうを?また建物たてものくつもりなの?けっして一人ひとりしろもんそとるなとお父様とうさまがおっしゃったことをわすれないで!」といながらさくられんうでつかもうとしたが、れんは「はい、はい、かってる」といらいらしたようにいながらさくらはらけ、廊下ろうか階段かいだんまでけてった。

さくらは「ああ、もう!あの馬鹿ばか面倒めんどうているひまはない。今朝けさ評議ひょうぎかないと…」とつぶやき、いもうとのことはわすれ、評議室ひょうぎしつへといそいだ。

階段かいだんくだりながら、れんは「もう、しろもんそとるななんて!しろからはっきりえる建物たてものならもう全部ぜんぶつくってしまったのに!城下町じょうかまちかないと、さそうないえつからない!」とつぶやいた。

しばらくすると、れん台所だいどころはいった。いつものあさのように、台所だいどころにぎやかだったが、運良うんよくそこにいる下女達げじょたち視線しせんすずほういていた。

下女げじょ一人ひとりすずほうかがめ、「今日きょう、お姫様ひめさまはどんなお料理りょうりをおつくりになりますか?」とった。

すず下女げじょ見上みあげ、「なに美味おいしいおやつ!」とこたえた。

下女げじょは、「おにぎりはいかがでしょうか?」とすすめた。

「いいよ!おにぎりが大好だいすき!」

一方いっぽうれんたくまれたおやつをいくつかり、ふところにしまってから勝手口かってぐちからようとすると、背後はいごから「れんねえちゃま!おにぎりをこしらえてみます!あとべてみてもらえますか?」と威勢いせいのいいこえこえた。「しまった」とつぶやくと、れん勝手口かってぐちからした。

れんへいそばさくらへといそぎ、紙束かみたばふところにしまってからのぼった。えだってへいうえうつり、こうにりた。すると、なかまち建物たてものでいっぱいになったれんはそこへかってあるはじめた。

まちみちをぶらぶらとあるきながら、「あれはっていない」とか「あれはもうつくった」とかつぶやいているれんには建物たてもの以外いがいものなにうつっていないようで、まわりの人々ひとびとにもくばっていないようだった。だから、どこにってもみの姿すがたすこはなれてれんをつけていたことにも、ゆたかな城下町じょうかまちとおぎ、まずしくさびれた場所ばしょまよんだことにもがつかなかった。

ようやく、れんはある建物たてものけられた。ちかづくと、「あれかしら?」というつぶやきは、すぐに「あれしかない!」という確信かくしんわった。

どうしてあのいえめたのか、れん自身じしんにもからなかっただろう。むかしあさやかないろであったとおもわれる二階にかいてのそのいえいまはくすんで白茶しらちゃけてえる。二階にかい露台ろだいにもぐちにも幾人いくにんかのおんながいて、ゆるんだ着物きもの胸元むなもとすこしあらわになり、すそがはだけてふとももがえていたというのに、建物たてものにしか注意ちゅういかないれんがつかなかった。

みちこうがわこしをかけ、れん紙束かみたばひざせて、黄土こうど木炭もくたんでその建物たてものえがはじめた。

しかし、そうしているうちに、おおきなおもかたかれ、ふとおとここえこえた。「おじょうちゃんは綺麗きれいやなぁ。それに、うちに興味きょうみがあるらしい。これからうちではたらくのはどうだ?」

いそがしいからほうっておいて。あっちにってくれないとえない」といらいらしたれんおとこまたあいだから建物たてものようとしたが、おとこ容赦ようしゃなくれんかたつかんだ。「いいか、うちではたらけとったら、うちではたらかなくちゃ駄目だめだ。て!」

「いたたたた!父上ちちうえがこれをくと、大変たいへんなことになるわ!だれか、たすけて!」とをよじってれんさけんだが、おとこれん建物たてものほうってった。「おまえ父親ちちおやても、すぐに片付かたづけてやるさ。このへんしろ武士ぶしでも一人二人ひとりふたりではないところだ、たすけにやつなどいるものか」