目次もくじ

  1. 第一章だいいっしょう  ゆきの子供達こどもたち
  2. 第二章だいにしょう  れんなにをしている?
  3. 第三章だいさんしょう  狐子ここ捜索そうさく
  4. 第四章だいよんしょう  たすかった
  5. 第五章だいごしょう  たびすす
  6. 第六章だいろくしょう  殿とのとの茶席ちゃせき
  7. 第七章だいななしょう  たび準備じゅんび

第五章だいごしょう

たびすす

しばらくしてもどってきた狐子ここしろまえ人間にんげん姿すがたけ、ゆきの部屋へやまでいそいだ。

ゆきの部屋へやはいると、ゆきは子供達こどもたちすこまれこまったかおをしてきながら、部屋へやなかすわっていた。さくらが「お母様かあさま、そんなかおをなさらないでください。椿つばき白菊しろぎくかせてしまいますから。狐子ここおばがれんさがしにったので、きっと…きっと無事ぶじかえってきますから」と、背中せなかでながらっていた。

ゆきが狐子ここ気付きづくと、れたほおぬぐいながら期待きたいちた眼差まなざしをけたが、すぐにれんがいないことにいた。「れんれんはどこにいますか?れんなにかあったのでしょうか?」とたずねた。よほど心配しんぱいだったのだろう。そのこえふるえて、かすれ気味ぎみだった

狐子ここはゆきのもと近寄ちかより、ひざをつくと、ゆきのかおぐに見詰みつめながら、「れんちゃんは無事ぶじです。狐一こいちやつがずっとついていますから。さっきれんちゃんはいえいええがいていたから、きっとしばらくしたらかえってくるでしょう」とった。

ゆきはめていた緊張きんちょうゆるんだのか、ながいきをつくと、「よかった…」とつぶやいた。

すると、狐子ここはゆきのをぎゅっとにぎり、「むかしはあんなに強気つよきだったゆきちゃんが、いつのにこんなに気弱きよわになってしまったのかしら。あのころのゆきちゃんならきっと子供達こどもたち心配しんぱいさせないように、もっと気丈きじょうったでしょうね」とったが、ゆきはくちはさんだ。「でも、あのときわたしにはまだ子供こどもはいませんでした。自分じぶん子供こども大変たいへんうなんてことはありえなかったのです。たとえば、もしれん一人ひとりしろして城下町じょうかまちったりしたら、わたし本当ほんとうにどうすればいいのかかりません」とゆきがうと、「自分じぶんなにもできないときには、子供達こどもたちまえでは、なに問題もんだいがないようなふりをしたほうがよいとおもいますよ」と、ゆきのにぎめながらうと、「ふぅ…」と、一度いちどおおきないきをつき、「殿とのはゆきちゃんをあまやかしているようですね。問題もんだい対処法たいしょほうまなばせるというよりむしろ、問題もんだいがあっても、それをゆきちゃんのにはれないようにしているようですね。狐一こいちやつによると、れんちゃんがそうとしているのにだれかが気付きづいても、ゆきちゃんにはなにわないで門番もんばん報告ほうこくしなさいと命令めいれいがあったそうですよ。だからそういうときは、狐一こいちれんちゃんのお見守みまもりについてくそうですわ」とうと、ゆきはキッとげた。「なんてこと!旦那様だんなさま抗議こうぎしないと!」本来ほんらいつよいゆきがやっともどってたようだった。

「それでこそゆきちゃんだわ!頑張がんばって!ひまがあったら、かなら応援おうえんしにますわ」と狐子ここあかるくったが、きゅうかおこもらせ、「でも…いま主人しゅじん世話せわもどらないと。お元気げんきで」とかるあたまげ、った。

狐子ここってから、ゆきはしばらく無邪気むじゃきあそんでおり、おさな娘達むすめたちなだめていた。百合ゆり寝転ねころがりながら、一冊いっさつまた一冊いっさつほんをバラバラめくっていた。最後さいごほんをぱたんとじると、「お母様かあさま、お祖父様じいさまくなっても、私達わたしたちはお祖父様じいさましろを――いえ、いま叔父様おじさましろぶべきかしら?――たずねますか?お祖父様じいさま蔵書ぞうしょなかみたいほんがあったのです。それをまないと、わたしきたいはなし上手うまえがけないようですから」とたずねた。

ゆきはおなかでながら、「わたしはこの状況じょうきょうではけませんね。それに、家老殿かろうさまはまだご病気びょうきですから、お父様とうさまたびなどおかんがえではないでしょう」とこたえた。

するとさくらが「お母様かあさまわたし責任せきにんって妹達いもうとたち面倒めんどうるから、どうか叔父様おじさまたずねることをゆるしてくれませんか?おねがいします」とうと、それにつづいてももすもも百合ゆりすずからも「わたしきたい!」「ゆるしてください!」「従兄弟達いとこたちあそびたい!」「あそこの美味おいしい料理りょうりまなびたい!」「おねがい!」などと、口々くちぐち自分じぶん希望きぼうした。その一方いっぽうで、椿つばき白菊しろぎくは「おかあちゃまとのこりたい」とった。

ゆきは苦笑にがわらないをしながら、「まあまあ、そんなたびわたし一人ひとりゆるすことはできません。でも、これについてお父様とうさまとおはなしします。約束やくそくです」とうと、「した小鳥ことりもどってました」と、戸口とぐちからこえこえ、ふすまき、狐一こいちが、かみたばむねかかえているれんともあらわれた。それをいたれんは、小鳥ことりばれたのがさわったのだろう。かれをきっとにらんだ。「狐一こいちおじ、わたし小鳥ことりなどとぶのはやめてくれませんか?もう十四歳じゅうよんさいだし、すぐに狐子ここおばよりたかくなるから、ほぼ大人おとなではありませんか?」とうと、狐一こいちは、「もっと大人おとならしくえるようになれば、やめます」と、れん言葉しせんかえした。

ゆきはれんあゆり、「おかえりなさい。大切たいせつかみよごれてしわってしまったようですね。どうしましたか?」ときました。

れんうつむき、「ただいま。とくなにこりませんでした。なにもありません。ただ、狐一こいちおじの馬鹿ばかがなぜかわたし大切たいせつかみみつけました」とつぶやいてから、ゆきのかお見上みあげ、「お母様かあさまみなどこかへくのですか?廊下ろうかあるいているときみなが『きたい』とっているのがこえました」とつづけた。

くかどうかはまだめていませんが、この子達こたちきたいところ叔父様おじさましろです」とゆきがうと、れんは「わたしきたい!あっちのまちはまだつくっていないし、えがくことさえしていない建物たてものやまほどあります」とをぎらぎらとかがやかせた。

「でも、またしろしたばつとしてお父様とうさまくことをゆるさないでしょう」とゆきがうと、れんからかがやきがえた。「だって、わたしかないとその建物たてものれません!お父様とうさま説得せっとくして!おねがいします!」とたのんだ。

貴方あなたかえしろすことを、お父様とうさまわたしこころよおもっていないことをっているはずでしょう?この状況じょうきょうで、貴方あなたくことをゆるすはずはありません」とゆきはったが、れんんだ表情ひょうじょうると、「でも、出発しゅっぱつまで一度いちどさずにいられたら、ゆるしてくれるようにお父様とうさま説得せっとくしましょう」

れんかみえがいたいえのぞき、「これをつくるには多分たぶんいち二週間にしゅうかんくらいしかがかからないでしょう。その後何あとなにつくるものがなかったら、このゆびをどうすればいいの?」と片手かたてばしてじっとつめながらつぶやいた。

「ところで、あの大名だいみょうさくら相応ふさわしくないおっとだとお父様とうさま説得せっとくしようとおもいます。もし、それでもさくらとつぐことになったら、さくら部屋へや百合ゆりにでもあたえることにしましょう」ゆきの言葉ことばむねさったのか、れんはしばらく呆然ぼうぜんははかおつめた。「な…なに?で…でも、部屋へやひろげられないのなら、このいえ場所ばしょはいったいどこにありますか?ゆかたなももういえでいっぱいですから…」とったかとおもうと、突然とつぜんひとみおくがついたようにれんはじめた。「そうだ、たな!もっとたな必要ひつようたなつくるしかない!たな!」と脇目わきめらず部屋へやからし、しろ宮大工きゅうだいく詰所つめしょかってした。

狐一こいちくびり、ゆきにあゆり、「あの気性きしょうはちょっと…」とゆきの耳元みみもとつぶやいた。すると、ゆきは「そうですね」としずかにこたえ、狐一こいち廊下ろうかれてった。「旦那様だんなさまはなまえに、まちこったことをいておきたいのです」とい、狐一こいち報告ほうこくけた。