間もなく大名の使いが使者の首をその町に引き渡しに来ました。そして、殿様の御前で、使いは思い詰めたように切り出しました。
「畏れながら我が殿は、あなた様が遣わされた使者の首を刎ねさせ、私に送りつけるようにと命じました。お確かめください。このようなことを平気でしたり、鬼に百姓を襲わせるような理不尽な主には、もはやお仕えすることはできません。ずうずうしいことは重々承知の上ですが、あなた様にお仕えさせて頂くわけには参りませんでしょうか。願いを聞き届けていただけない場合は、浪人になる覚悟もできております」その使者の眼差しは、真剣そのものでした。
殿様は、その瞳を見つめながら、「ふむ。家老、この首を家族の元に届け、丁重に葬ってやれ」と言いつけました。そして家老が首の入った箱を持ち去ると、「そなたの仲間も同じように考えておるのか」と、使者に訊きました。
大名の使者は、頭を下げたまましばらく考えたのち、おそるおそる語り始めました。「我が殿はとても恐ろしいお方なので、皆殿を恐れ、本音を語る者などおりません。ですから、あくまで私の推測ですが、殿の下を去りたがっている者は少なくはないでしょう。しかし、一族に対する報復を恐れ、国を出られない者もおりますし、中には我が殿のような厳しいお方こそ真の主だと考える者達もおるようでございます」と、殿様の目を真っ直ぐに見つめながら答えました。
「そうか。わしの家来になりたいのなら、後で家老に話してみるが良かろう。しかし、わしの軍勢に入る前に、この仕打ちに対するわしの返事を持って国へ戻れ。わしの返事はこうだ。『貴殿の胸の内、よく分かった。そちらがそう出るならこちらにも考えがある。お覚悟召されよ』とな。そしてできるだけ多くの叛意を持つ者を連れてここへ戻って参れ」そして殿様は声を張り上げて叫びました。「これは戦だ!」