間もなく、狐子は狐一たちの部屋に着きました。琵琶法師はその中にいました。彼は、大名が訪ねてきたら、どんな歌を歌うのがよいと頭を絞っているところでした。狐子が障子を開けて中に入ると、彼は机から視線を上げて、お辞儀をしました。「先生、こんにちは。今日の修行はもっと遅い時間ではないのですか。今、何か用事がありますか」
「あの広子という娘さんを知ってますか」
琵琶法師はしばらく首を傾げけて、頷きました。「ふむ。狐一さんをご家老の執務室へ連れて行った人ですか?はい、知っています」
「広子ちゃんは何かまじないがかけられてるようですが、何か知っているかしら。どんな呪いか分かりますか?」
琵琶法師は俯きました。「昨晩、狐一さんが狐の姿のままここで休んでいる時、あの娘は狐一の姿を見てしまい、悲鳴を上げたのです。彼女を落ち着かせようと、狐を恐れないようにする呪文を使ってしまいました。申し訳ありません」
「もう、どうして誰も伯母様の話にちゃんと聞いていないのかしら」と呟くと、狐子は大きな溜息をつきました。そして、厳しい視線を琵琶法師の方に向けました。「しょうがないわね。どんな呪文を使ったのかを教えなさい」
琵琶法師が呪文の種類を説明すると、狐子はまた彼を叱りました。「そんな!あんな呪術を敵でない者に使うなんて、信じられません。あれは相手の判断力を麻痺させて、しまいに命まで奪ってしまうものではありませんか。さあ、行きましょう」
「私がですか?どちらへ?」
「狐一より愚かな者になろうというの?あの娘を見つけ、術いを解きに行きますよ。これは今日の修行です。早く!」と狐子が言うと、二人は部屋を出ました。