翌日、家老が目覚めると、狐子が枕元に座っていました。彼女の側に置いてあった角盆から美味しそうな匂いがしました。
二人が食べたり喋ったりした後で、部屋を出ると、そこには八狐が待っていました。狐子は狐の姿に戻って立ち去り、家老は八狐を姫の家へ案内することになりました。
その途中、家老は八狐に尋ねました。「八狐どの、狐子様がお父様のことを気になさっているようです。あの方が私達をこちらに連れてきたせいで、族内の問題が山のように積もっているとのことです。どう思いますか」
「そうですか。多分、狐子様はあまりこちらにいらっしゃらないので、事情をよくご存じないのかもしれません。私達にとって、この問題はあまりにも身近過ぎて冷静に見通せないところがあります。狐子様の方が、むしろ事態に判断することができるかもしれません。しかしながら、族長様より強い狐はただの一匹しかおりません。もしその方と族長様とが力を合わせれば、たとえ一族全員が族長を倒そうとしても倒せないでしょう」と八狐は答えました。
「なるほど。その方が族長に挑んだら、どうなるでしょうか?」と家老は尋ねました。
八狐は数回尻尾を振りました。「そのようなことがあるとは思えません。お姫様は権力を手に入れることに興味をお持ちでないようです」
家老は目を丸くしました。「お姫様ですと…?お姫様がそれほど強いのなら、どうして谷から追い出されたのですか」
「追い出されたわけではありません。ただ、お姫様は狐の社会に戻っても、そこにはもう住めないでしょう。他の狐のいじめのせいではなく、ご自分が不安なので、谷の上に住処を掘ったようでございます」と八狐は答えました。
家老はしばらく黙り込みました。それから、「もし誰かが族長様に対して手を出したとすれば、お姫様はどうなさると思いますか。弟の族長様を助けるのですか、住処に残ったまま結果が出るまで待つですか」と聞きました。
「そうですね」八狐は少し考えました。「そのようなの場合、もし族長様が倒される可能性が高くなければ、住処にお残りになることでしょう。もし族長様が倒されるようなことにでもなれば、私達はどうしたらよいものかと、心配しております」
家老は頷きました。「狐子さんは、『こんな状況だから、一人で部屋から出たりするなよ。もし私もお父様も八狐どのもいない場合は、部屋の中に残っていなさい』と言いました。八狐どのの意見は?」
「もちろん賛成です。族長を倒せない奴は、代わりに嫌いな人間に悪戯するかもしれません」と八狐が答えた後、二人は姫の家へ向かって歩き続けました。