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次の朝ゆきは早く起きました。古い服を着てから、温泉の掃除を始めました。しかし女将はゆきを見て、「この町一番の茶道家がそんなことをする必要はありません。さあ、絹の着物に着替えて買い物に行きましょう。真珠を忘れないようにしてください」と言いました。
女将はゆきの素性が気になるのか、市場に行く間に、色々と質問をしました。
「どちらで茶道を学んだのですか」と女将は聞きました。
「実は、祖母から茶の湯を習いました」とゆきは答えました。
「お母さんや、お父さんは?」と女将は聞きました。
「母も父も私が生まれてから間もなく亡くなりました」とゆきは答えました。
「そうですか。あなたは今、おいくつですか」と女将は聞きました。
「今年で十七歳になります」とゆきは答えました。
「そうですか。お祖母さんのお名前を教えていただけませんか」と女将は聞きました。
ゆきがお祖母さんの名前を教えた頃、最初の店に到着しました。
女将が「その名字…」と尋ねかけた時、番頭が店先に現れました。「あっ、番頭さん、こちらはうちの新しい腕利きの茶道家、ゆきさんです」と紹介しました。
それから女将は次々と店を巡って、ゆきを商人に紹介して回りました。
程なくすると、新しい茶道家について、町の住民が皆口にするようになりました。温泉に行ってゆきの茶の湯を見た人々は皆驚き、ゆきの茶の湯の腕を褒めました。その後の数日間、温泉はかつてないほど賑やかでした。