それから狐一はだんだん城の暮らしに慣れてきました。広子の獣に対する恐怖心は消えた後でも、狐一の口答えは絶えませんでしたのに、暇さえあれば、二人は一緒にいることが多くなりました。
狐子からの修行は喧嘩ごしにもかかわらず、狐一の振舞いはだんだん礼儀正しくなって、家老に叱られることは減ってきました。
しばらくすると、殿様の到着の日が来ました。見張り所から殿様の旗が見えると、ゆき達は城門に集まりました。ゆきは深く頭を下げました。「お義父上、こちらへようこそ。長旅でお疲れでございましょう。お湯も食事も用意させてありいます。どちらでもお寛ぎください」
殿様はゆきの姿を見やりました。「ほお、お腹が大きくなっとるな。すぐに孫ができるんじゃろうな。お前の素晴らしい茶道をまた楽しんでみたいが、どうじゃ?」
「もちろんですとも。こちらへいらして頂けたら、すぐに道具を用意いたします」と言うと、ゆきは殿様と若殿を連れて自分の部屋へと向かって歩き出しました。
すると、家老は声をかけました。「狐一、荷物を持っている家来を殿様の部屋へ連れて行け。そして、兵舎へ」
「かしこまりました」と言うと、狐一は殿様の家来を連れて出ました。
狐子は家老に近づいて囁きました。「狐一君はいい子になったでしょう」
「みたいだな。しかし信用ならない。この訪問が問題なく終わるよう祈っている」と家老は小さく答えました。