間もなく狐子達はさっき狐子が狐一達に会った場所に着きました。すると、狐子が狐の姿に化けて、狐一達の匂いを嗅ぎ分けながら走り出したので、琵琶法師は彼女を追いかけざるを得ませんでした。
しばらくすると、二人は狐一達に追いつきました。広子は狐子に気付くと、「可愛い!狐って大好き!」と声を出し、狐子のところまで走って狐子を抱き上げました。彼女の後ろから「おい、広子さん!狐子と遊んでいる暇はないんじゃありませんか?」と言う声が聞こえました。
「うぐ!この子が私を押しつぶす前に、まじないを解きなさい!」と狐子がいうと、後ろから駆けて来る琵琶法師は広子の腕に触れました。
すると、広子は「きゃあ!」と悲鳴を上げながら倒れ、広子の腰元に投げ出された狐子は人間の姿に戻りました。広子は狐子達からできるだけ遠くへ這うように逃げて、やっと狐一の足下で止まりました。狐一の顔を見上げて、さらに高く悲鳴を上げ、廊下の壁まで這って逃げました。そこで広子は泣いて震えながら身を丸めました。「きゃあ!狐に囲まれてる!誰か、助けて!」
「お前ら、何をした?広子さんを傷つけたら、決して許さないぞ!」狐一は拳を握って狐子を睨みました。
「狐一の馬鹿!あの子にかけた呪いに気づかなかったの?琵琶法師さんはただそれを解いたの!」
「け!あれ、六ヶ月の子狐でさえ解けるんじゃない?」
「間抜け!人間が狐のまじないを解くなんて出来るはずがないでしょう?」
「ふむ。…できないのか?け、とにかくあれはあの法師とかいう野郎のせいんじゃない?」
琵琶法師は軽く咳払いしました。「先生、すみませんが、後で従弟さんと喧嘩できるのでしょうか。今は、とりあえずあの娘のことを考えましょうか」と広子を示しながら訊ねました。