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間もなくゆきは都の門に着きました。
「こんにちは。私はゆきと申します。どうぞよろしくお願いします」とゆきは門番に言いました。
「なんで君のような子がこの町に一人で来るんだ」と門番は言いました。
「幸せを探すためです」とゆきは答えました。
「では、この町に仕事があるんだな」と門番は言いました。
「そうです。あっ、それと、この手紙を温泉の女将にさしあげることになっているのです」とゆきは門番に手紙を見せながら言いました。
「それが本当なら、町に入っても構わない。しかし、もし三日以内に仕事が見つからなかったら、町を去らなければならんぞ」と門番は言いました。
「はい、分かりました。すみませんが、温泉はどこですか」とゆきは聞きました。
門番が道順を教えた後で、ゆきは間もなく温泉に来ました。
「ごめんください」とゆきは呼びました。
「いらっしゃいませ」と女将は返事をしながら、出てきました。
「こんにちは。私はゆきと申します。女将さんに話をさせていただいても宜しいですか」とゆきは聞きました。
「こんにちは、ゆきさん。私が女将です」と女将は言いました。「いかがなさいましたか」
「実は、旅路で、とある商人さまと出会いました。商人さまは、この手紙を温泉の女将であるお姉さまに渡してくださいと言いました。こちらをどうぞ」とゆきは手紙を女将に渡しながら言いました。
「どうぞ上がってください。その間に読んでおきますから」と女将は言いました。
「お邪魔します」とゆきは言いました。
「ああ、弟はあなたのお手前は素晴らしいと書いております。そのお手並みを拝見したいと思います。弟から貰った、その新しい絹の着物を着た後で、茶の湯を点ててください。もしあなたが弟の言う通りの方なら、ここで雇いますよ」と女将は言いました。
「はい。でも、私は少し汚れております。こちらの新しい絹の着物を汚したくないと思っているのですが」とゆきは言いました。
「あ、そうですね。どうぞ、あちらがお風呂になっています」と女将は言いました。
お風呂に入って絹の着物を着てから、ゆきはお点前を披露しました。それを見届けてから、女将は、「どうやら弟が申していたよりも、ゆきさんの茶の湯の腕は達者のようですね。こんなに素晴らしいお手前を、十五年以上もの間見たことがありません。失礼をいたしました。どうぞここにお留まりください」と深い会釈をしながら言いました。
「どういたしまして。誠に粗末なものでしたが」とゆきは言いました。「よろしければ、ここで勤めさせていただきたいと思います。でも、私はこの町に着いたばかりです。住まいもなく、お金もありません。こちらに貝から見つけた真珠が少々あるだけです」と、ゆきは懐から真珠を取り出して言いました。
「それでは、その真珠を使って首飾りを作ると良いでしょう。ここにある部屋に住んでも結構です。明日、私とゆきさん、二人で一緒に買物をしましょう。真珠の首飾りを作るのに宝石商に行ったり、絹の着物をもう少し買いに弟の店に行ったりしましょう」と女将は言いました。
「しかし、お金がありません」とゆきは言いました。
「心配しないでください。お金は私がお貸しします。この町一番の茶道家なんですから、すぐにも返すことが出来ますよ」と女将は言いました。