その夜、忍者の長は黒装束に身に包み、城から抜け出し、殿様の野営地に忍び込みました。番兵の目を注意深く掻い潜りながら、忍者は殿様の本陣にゆっくり近づいてゆきました。しばらくして、忍者は抜け出した時と同じように、注意深く音を立てずに城に戻り、大名の元へ報告に行きました。
大名が「事は済んだのか?」と聞きました。
忍者は大名に近づき、「はい」と答えました。
大名が「よかろう…」と言いかけたその時、最後の言葉を言い終える前に、忍者は音もなく刀を抜き、大名の首を、その鋭い刀で切り落としていました。血のついた刀をそっと拭いた後、忍者は城の門を開け、兵を迎え入れて、殿様たちと落ち合いました。
忍者は、「お約束の通り、大名は始末いたしました」と忍者は殿様言いました。
殿様は重そうな袋を渡し、「約束の報酬だ、受け取れ。しかし、主人を殺すのに手を貸すような者を我が領内にとどまらせるわけにはいかない。早々に立ち去るのだ。さもなくばお前の命は保障できぬ」と殿様は言いました。
「承知いたしました。これほどのものを頂きましたので、もはや宮仕えをする必要はございません。自分で道場でも構えてやっていこうと思っております」と忍者は答え、城から立ち去ろうとしました。
「そなた、待て」と若殿は言いました。「なぜ、我らに寝返ったのだ?」
忍者は、しばしとどまり、「忍びの身でございますから、侍のような栄誉はございませんが、我が殿の為に、十五年間、全身全霊を捧げていました。しかし、その期間我が殿は私をあまり評価してくださいませんでした。しかし、私はそれでも、殿のためにと今まで我慢に我慢を重ねていましたが、今日になり初めて、我が殿が自分を守ることしか頭になく、家来の命を軽く考えておられるのを知り、ついに堪忍袋の緒が切れてしまいました。仮に私が我が殿をこの危機から助けたとしても、すぐに他国がまた我が殿の命を狙うでしょう」
「そうなるだろうな」と殿様は答えました。
「それが私の答えでございます」と忍者は答え、城から立ち去りました。