次の日から、ゆきは若殿の勧め従うように努めめました。報告書を読んだり、家来と若殿と評議をしたり、家来がしていることよりも、むしろまだしていないことを考えようとしたりしました。
数日後、家老たちが城に戻りました。家老達はすぐにゆきと若殿のもとに参上しましたが、その中には見知らぬ若者の姿もありました。
「狐子、本当にこんな姿をしなきゃならないのか?服を着るのが嫌だ。あちこちに痒くなってしまってしまうからな」と若者は尻を掻いて言いました。
「狐一のバカ!この国ではこのお方の位が一番お偉いのですよ!丁寧にしなさい!」と狐子は従弟に呟いてから、若殿に向かって会釈をしました。「お殿様、こちらは私の従弟なのでございます。お殿様がお許しくだされば、一年ほど彼をこちらでご奉公させて頂いて、人間のことを少しでも習うようにと私どもの族長は望んでおります。よろしくお願いいたします」そしてまた狐一に振り返って、促すように目配せしました。
「俺は」と狐一は始めると、狐子の視線で刺されたかのように口を止めました。「あ、いや、丁寧に、分かった」と呟いた後で、再び自己紹介を始めました。「僕は狐一と申します。よろしくお願いします」と言って、軽く一礼をしました。
「従弟をお許しください。まだ人間の習慣があまり分からないのです」と狐子は謝りました。
「やれやれ。従弟と申すのだな。ゆき殿もか?」と若殿は言って、顎を撫でました。狐子が頷くと、若殿は続けました。「ゆき殿が家族がないというのに、縁者はどんどん増やしているようだな。狐をだよね?」狐子はまた頷きました。「よし、その狐一とかいう者に職を与えることは家老に任せる」
家老は傷ついた腕を撫でました。「何か適当な職を考えます」と言いました。
狐一は唾を呑みました。「姉さん、どうしよう?あいつは何か嫌な職に就かせるに違いない」と狐子に言いました。
「構わない。そうなるのは、自業自得じゃない?」と狐子は言って、狐一に背を向け、ゆきと喋り始めました。
琵琶法師がにっこりと微笑み、そっとその光景を記憶の中に留めました。なんと面白い話に成り行きだろう、と思いました。