仕立て屋がゆきの採寸をして、狐子が着物を着替えると、ゆきは呉服屋の兄である仕立て屋におずおずと「あの、つかぬことをお伺いいたしますが、面白い本を探しているのですが、どこかお心当たりはございませんでしょうか」と訊ねました。
呉服屋は、「時々、本を売る行商人がこの町に参りますが、残念ながらここの所、とんと見かけませんなあ」と言いました。
ゆきが「そうですか…」と呟くと、呉服屋は、「兄さん、どう思う?」と仕立て屋に尋ねてくれました。
すると仕立て屋は、「本さえお借りできれば、この町にいる代書屋が本をお作りいたしますよ。どのような本をお探しでしょうか」とゆきに聞きました。
ゆきはばっと笑顔になり、「『源氏物語』が大好きなんです。この町に、お持ちの方はいらっしゃるかしら」と聞きました。
仕立て屋は顎に手をやり、ふうむと頷き、「この町の庄屋さまは、なかなかの読書家だとの評判ですので、そのような本をお持ちかもしれませんね…おいお前、どう思う?」と呉服屋に聞きました。
呉服屋は、「確かに。それに、代書屋なら誰がどんな本を持っているのかを知っているでしょう」と答えました。
ゆきは、「庄屋さんと代書屋さんですか。その方々はどちらにいらっしゃいますか」と尋ねました。
呉服屋は、「代書屋の店は、市場の反対側でございます」と言いました。
仕立て屋は、「はい、それに庄屋様ですが、先ほど私がこちらに戻って参ります時、ちょうどこの店の前で、見物人の中に庄屋様の姿をお見かけしました。ゆき様の採寸をいたしに急いでいたので、軽く会釈だけしました」と加えました。
ゆきは、「そうですか。では、行ってみます」と、店を出ようとしましたが、途中で足を止めて、商人たちの方に向き直りました。「呉服屋さん、私を庄屋さんに紹介してくださいませんか」
呉服屋は、「ゆき様のお役に立てるなら喜んで」と言い、ゆきと狐たちの後について店を出ました。