第二十一章
大名の返事
次の日、鬼の足取りを調べに行った兵が戻ってきました。兵の話によると、鬼は隣の国から来たようでした。早速、兵達は鬼の首を荷車で国境まで運びました。鬼が死んだという話は、あっという間に国中に広まりました。百姓たちは、とても喜びましたが、ゆきを手に入れる計画がうまくいかなかったので、大名は喜ぶことが出来ませんでした。
そのうち、ゆき達の婚礼に参加していた近隣諸国の領主達のほとんどは、その大名を倒すために、兵を送り出してきました。続々と戦の準備のために兵が到着しました。そして、ゆきの義父となった殿様が、総大将として隣の国の大名に対し、ゆきに領主の地位を譲るように使者を遣わしました。
その行為に大名は大変気分を損ね、「このようなわけの分からん要求を突きつけてくるとは、いったいどういうことだ?どうしてわしが前の大名の娘だと名乗る女子にこの国を譲らねばならんのだ。そもそもその女は何者だというのだ?所詮百姓の娘だろう」と、目をつり上げて、使者を怒鳴り散らしました。
使者は、「ゆき様がこちらの国を治めるか否かに関わらず、鬼の襲撃の件で、あなた様には領主の座を退いていただかねばならぬと我が殿達は申しております」と、落ち着き払って答えました。
「わ…わしはそんな鬼のことなど知らぬ!!」と、怒りのあまり耳まで真っ赤にしながら大名は答えました。
使者は、「襲撃の時、その鬼が『そいつは大名が話していた娘だろう』と言ったのを皆が聞いておりました。そして、鬼の足取りを調べると、この国から来たことが判明しました。もはや言い逃れはできますまい。ここは領地をお譲りになられるのが得策かと思われます」と言いました。
大名は「そなたの主がわしに鬼の首を送ったように、わしも同じようにしてやろう。そやつの首をはねて送り返してやれ」と家来に怒鳴りつけました。
使者は、その言葉を聞くやいなや身構えましたが、刀を抜きかけたその瞬間、すでに首が宙に飛んでいました。首が大名のところまで転がる前に、血だまりに頽れる使者の体の背後で、忍者の長がもう血に染まった刀を拭いているのを見て、大名は満足げに目を細めました。
そして、使者の首は主の下へ送り返されることとなったのです。