第四十九章
面会の準備
ゆきは家来の妻のことを考えながら自分の部屋に戻って来て、窓際に座わりました。女将が櫛でゆきの髪を撫で始めると、ゆきは女将に話を始めました。「女将さん。今晩、新しい村長の妻と会うことになりました。その人のことを、何かご存知ですか」
女将は髪を撫でながら、家来の妻のことを思い出そうとして、しばらく黙り込みました。やがて、「あぁ、そうそう、子供が二人おります。ゆき様のお怒りに触れたので、一家が遠い村に送られてしまうという噂が広がっているのでございます」と女将が言うと、ゆきは飛び上がり、女将の方を振り向きました。「私が怒っているですって?どうしてそんなことになっているのでしょうか」
女将は櫛で頬を軽く叩き、「ゆき様の悪い噂を広めたのはその者なのじゃないですか?ゆき様がそのことをご存じになり、お怒りなのだと思っているのでしょう」と答えました。
ゆきは溜め息をつきました。「そんな人と会って、私が話をしても、きちんと聞いてくれないのではないでしょうか」
女将は櫛をしまい、「まず、お話しをなさる前に、一服のお茶で、その者の気を落ち着かせてはいかがでしょう。それから、ゆっくりと問題についてお話しなさればよろしいかと存じます」と答えました。
ゆきは頷いて、「そうですね。それではお茶の席に相応しい着物を選んでいただけますか。その間に私は茶道具の支度をします」と、準備を始めました。