第三十一章
市場へ
ゆきは狐達と一緒に市場へ向かう途中、狐子といろいろなことについて話しました。
ゆきは、「京から来たばかりなの?京は面白そうね。でも遠くない?私も行きたいのだけど、何日くらいかかるの?」と訊きました。
狐子は答えました、「狐のおまじないがあれば、あっという間に着いちゃうわよ。まぁ、人間なら数週間はかかるでしょうね」
ゆきは、「狐子ちゃん、それは、他の人と一緒でも大丈夫なの?」と聞きました。
狐子は、「それは無理。狐のおまじないは、自分にしか効かないの」と答えました。
ゆきは、「それは残念だわ。京では、お姫様がそういう着物を着るの?」と尋ねました。
「そうよ。公家のお姫様だって着てるんだから」と狐子は答えました。
そんなふうにおしゃべりを続けながら、女の子達は狐の後について行きました。
一方、その城下町の人々はゆき達を見て、このように話していました。
「あそこに娘さんがいるね」
「あの赤毛の娘さんのことかい?」
「違う。あの赤毛と話してる娘さんだよ」
「ああ、それがどうした?」
「あの人、ゆき様だと思わないか?」
「そうだ、そうだ。この前、ゆき様が岩の上で演説していたのを、俺は見たよ。その時も同じような着物を着ていたから、あれはゆき様に間違いない。それにしても、殿様の奥方が市場に行くというのも珍しいな。おい、ついて行かないか?」
「そうだな。面白そうだな。ついて行こう」
「先に行っててくれ。ついて行くのもいいが、俺はまず家に寄ってからにするよ。うちのかみさんがゆき様を見てみたいと言ってたから教えてやらないと」
「そりゃいい思い付きだ。家の子供達もゆき様を見たいと言ってたよ。家族揃ってみんなで市場へ行ってみよう」
あちらこちらで、ゆきに気付いた人達がささやき始めました。早速、ゆき達の後をつけ始める人もいれば、家族・親類・友人達を集めて大勢で市場へ向かう人達もいました。