第八十八章
小姓をやめる
狐一はしばらく執務室の外で廊下の壁にもれながら待ちました。「け、あの騒ぎのおかげで、俺は狐の谷に戻されるかもしれない」と呟いた後で、大きなため息をつきました。「しかし、こんなに早く戻ると、俺が何か問題を起こしたとみんなが邪推して、伯母姫の顔を潰すことになるに違いない。どうしたものか?」そして忍び笑いをしました。「だが、人間どもをぶっ飛ばすのは楽しかったぞ。大怪我しないように気をつけなくちゃいかんがな」
やっと足音が聞こえてきました。狐一は背筋を伸ばして立ち上がりました。すぐに家老が現れて、執務室の障子を開けました。机に着席した後、「入れ」と命じました。
狐一は机に近づき、黙ってそこに立ちました。
「小姓が勝手に、訪問中の侍と大喧嘩するなど許されることではない。分かったな?」
狐一は唾を呑んで、頷きました。
「斯くある上は、小姓としての勤めは解任する。他の仕事を命じる。厩の掃除などをな。ふむ」紙と筆を取り、家老は何かを書き始めました。狐一は息を詰めました。手紙を折り畳んで封じてから、家老は狐一へ差し出しました。「これを親衛長に届けよ」
狐一は手紙を受け取り、出ました。「いったいこれにどんなことが書かれているのかな」と思いながら廊下を歩きました。