第二十六章
ゆきの出発
隣国の城が、殿様の手中に落ちた後しばらくして、殿様は自分の城に戻りました。ゆきは、「お義父上さま、お帰りなさいませ。若殿さまはどちらにいらっしゃいますか。ご無事でございますか」と尋ねました。
殿様は、「心配無用だ。息子はあの国の城に留まっている。ゆき、今から息子に逢いに行きなさい。旅支度は家老が手を貸してくれるだろう」と答えました。それからゆきは家老の助けを借り、旅支度を整えました。
一方、敗北した大名の国のあちらこちらで、このような噂が飛び交いました。
「前の殿様の姫君が来るそうだ」
「なんと?前の殿様の一族は皆すでに死んでしまったはずだが…」
「ゆきという姫君が祖母とともに逃げて、祖母が密かに育てていたらしい。最近、その姫君は隣の国の若殿と結婚したそうだ」
「面白そうだね。その姫君を見に行こう」
しばらくして、ゆきは駕籠に乗って、若殿が待つ国へ向かいました。国境には、老若男女を問わず多くの人々が詰め掛けていました。ゆきはこんな会話を耳にしました。
「あの一行がゆき様じゃないだろうか!」
「えっ、どこに?」
「ほら、あの駕籠に!」
「よく見えないぞ!」
ゆきは付き添いの従者に「止めてください!あの者たちに話があります」と言いました。
馬でゆきに従っていた従者が、「それはいかがなものでしょうか。おやめになった方がよろしいかと存じますが」と言いました。
「この国を治めることになるなら、あの者たちの助けを借りることが最善ではありませんか。どうしても話す必要があるのです」とゆきは答えました。