第二十四章
大名の思い付き
殿様の同盟軍が隣の国に攻め入ると、その国の兵は大名の城へ退却し、間もなく殿様はその城を包囲し、攻撃し始めました。
大名は激高し、忍者に言いました。「馬鹿な鬼め、なぜあの時の襲撃で死んでしまったのだ?」
すると忍者は、「私は鬼のことは存じませんでした」と冷静に答えました。
大名は、「あの連中は、襲撃がわしのせいだと責めておる!わしが命じたわけでもないのに!」と言いながら座布団を取り、裂き始めました。
忍者は、「左様でございますか」と瞬きもせず答えました。
大名は裂かれた座布団を床に投げ、舌打ちをし「どうすればいい?向こうは多勢である上に、わしの家来どもはあの有様だし、打つ手がない」と哀れっぽい声で言いました。
忍者は表情を変えずに、「左様でございますか」と繰り返しました。
その声に反感が籠もっているのに気付かなかったのか、大名は、「そうだ!忍者のお前なら、敵陣に入って、あの殿と息子を殺すことができるだろう」と言い、輝きを取り戻した目を忍者の方へやっとはじめて向けました
「それはそうでございますが、そう簡単にはいきますまい。狐の襲撃の際、私は家来を全て失いましたし、相手方の警護は厳重でございます」と忍者は冷たく答えました。
忍者は大名とは反対に、冷静沈着そのものでした。大名は、その冷静さの理由が分からないまま、それに対して怒りをますます増幅させました。大名はいらいらしながら「つべこべいわずにやれ!」と叫びました。
「仰せの通りに」と忍者は答え、部屋から出て行きました。襖が閉まると、それまで冷え切っていた部屋の温度がふっと元に突然戻ったようでしたが、それすらも大名は気づかないようでした。