第八十六章
狐一と家来達
狐一が家来たちを殿様の部屋へ連れて行く途中、家来の一人が彼に声をかけました。「おい、そこの餓鬼、普通の小姓よりもずいぶんと年上なんじゃないか?なぜまだ小姓のままなんだ?そんなに頭が悪いのか?」
狐一は歯を食いしばりましたが、家老の「問題を起こすな」という言葉を思い出し、黙って歩き続けました。
殿様の部屋に着くまで狐一は家来たちに侮辱を受け続けましたが、狐一は聞こえない振りをしたまま歩きました。しかし、部屋に殿様の荷物を置いてそこを出る間もなく、話題が変わりました。「ほら、この城の主は我が殿の若君だったじゃない?なぜお世継ぎを失ってまで、こんなところへ追放したのかな?」
「いいか、あの方は百姓の娘と恋に落ちたんだな。なぜか我が殿はその女と結婚させてやったが、その代わりにお世継ぎを次男に譲らせなければならなかったのだ」
この台詞を聞くと、狐一は頭に血が上ったように振り返って叫びました。「ゆき様を百姓なんか呼ぶな!謝れ!」
家来たちは高笑いをしました。「この餓鬼が俺らの長のつもりでいるぞ。おい、小姓め、俺らが謝らないならどうする?」
ちょうどその時、広子はそこをを通りかかりました。その光景を見るなり、狐一の元に駆け寄って声を上げました。「狐一君!お客様に叫ばないで!家老様から罰を受けるわよ!」
家来達はさらに高笑いをしました。「ほら、この餓鬼は女子に守られないと駄目なようだぜ!」そして、家来の一人は広子の手を掴んで引き寄せました。「俺様の方があの餓鬼よりもいい恋人になるぞ」
「きゃっ!手を離して」と広子は言うが速いか、その家来はすでに倒れていました。その仰向いている姿に跨がっているのは狐一でした。「広子さん!家老様を呼びに行って!」
「ほお!この餓鬼は度胸があるな!行くぜ!」と家来の一人が言い終わる前に、広子は廊下を駆けて行きました。