第八十五章
殿様との茶席
ゆきのお茶を飲んだ後、殿様は声をかけました。「ほお、懐かしい。ここで素晴らしいお茶席を楽しむのは十五年ぶりのことじゃな。そなたのお点前はすぐにおばあさんを越えるじゃろうな」
ゆきの顔が赤らみました。「祖母のお点前と比べられるなんて、とんでもないことです」
「もう一つ懐かしいことがある。あの門で会った、赤毛の女子じゃ。ここで籠城していた時を除いて、赤毛の者に会ったことはない。しかも、あの子はあの時の子とよく似とる」
「あっ、それは狐子さんです。そういえば、狐子さんもここに籠城していたと言っているのです」
「とんでもない!あの子は、まだ二十歳にもなるまい。しかし、あの時の子も確か『ここ』という名前だったと微かに覚えておる。門にいた子はあの時の子の娘か何かかな」
「でも、狐子さんの他にもう一人の籠城していた者がいます。家老さんも狐子さんが籠城していたと信じているようです」ゆきは頷いている若殿の方をちらりと見た後、「女将さん、家老さんと狐子さんを探してここに来るようと伝えてください」女将が会釈をして部屋を出ると、ゆきはまた話し出しました。「あの者達を待つ間に、もっとお茶でも召し上がりませんか」
しばらくすると、女将は狐子達を連れて戻りました。しかし、彼らを殿様に紹介するや否や、廊下から駆けて来る足音が聞こえました。間もなく障子が開いて、肩で息をしている広子が戸口に立っているのが見えました。「家老様!大変です!狐一君が…家来達と…喧嘩しています!」
「あいつめ!」と叫ぶと、家老は飛び上がり、皆と共に部屋を出て広子について行きました。