第三十九章
旅の準備
ゆきが村を訪ねることを耳にした狐子は、「私も行きたい」と言い出し、若殿はそれを許しました。
旅に出るまで、ゆきは評議に立ち会ったり、家老から統治についての心得を教わったり、厩の者から馬の乗り方を学んだりして、忙しく暮らしていました。その一方、狐子は城の女性たちの言動を調査していました。人間の姿で彼女たちに交ざり、「この着物が気に入ったの?京のお姫さまは皆このような着物を着ているのよ。市場の仕立て屋は、ゆきちゃんのためにこれと同じような着物を作ってるわ。あ、ゆきちゃんと言えば、あなたたち、彼女のお点前を見たことある?私は京一番の茶道家を見たことがあるのだけど、それでもゆきちゃんのお点前を見た時はあまりの美しさに、思わず息を呑んじゃったわ。お願いしたら、もしかしたらあなたたちも見せてもらえるかもね」などと、城の女性達にいうこともありました。
また時には狐子は他の姿に化けて現れることもありました。侍女や、小姓や、猫の姿に化けて、城のあちらこちらで、いろいろな会話を聞くのです。もし、ゆきの悪口を話している人がいたら、すかさずおまじないでその人の指に針を刺したり、床板で躓かせたり、持っている物を落とさせたりしたのです。たまたまゆきが側にいて、狐子のいたずらに困っている者達を助けたこともありました。ゆきの心の優しさ、美しさは、日ごとに皆に伝わり、悪口の代わりに、「お点前を見せてほしい」という言葉が城には飛び交うようになったのです。
村への出発の前日に、若殿は城に仕えている者達全てを招いた盛大な宴を催しました。宴が一段落したところで、ゆきは新しい着物に着替え、お茶を点てました。ゆきの着物の優雅さとお点前のと見事さに、皆は感動のあまり言葉を失ってしまいました。そして、その後しきりにゆきを褒めたたえました。